Contemporary Arts and Crafts

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Ikuma Wadachi

LastUpdate-- 2017.10.19
Update-- 2014.11.03

ジグソー七宝の制作技法(2)

2006年、日本現代工芸美術展と日展に出品した七宝作品 
「崑崙の雪」と「崑崙」は、縦80x 横120cmの銅板切断 
によるジグソー七宝技法により制作しました。       
                            
糸鋸によるジグソー七宝の制作工程の一部をご紹介します。 
(「ジグソーパズルのような七宝」の意味の造語です)   


memo-g222.gif 01.大下図作成(銅板切断用)


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2005年12月、ラフスケッチから「崑崙の雪」の下絵制作にかかりました。

テーマは、塚本邦雄の「百合一花崑崙に雪ありとおもへ」の俳句に衝撃を受け、西王母の住む不老不死の国、その崑崙山が雪を冠ったインスピレーションから広がったものです。時間軸が重なり、過去と現在、未来を行き来する不思議、自然の美を敬いながらも、文明や文化のあるべき空間を維持しようとするイメージを描こうとしました。

パソコンソフトの「Photoshop」を使って、小下図から色彩画像を作成後、銅板切断用の中下図と大下図を作成しました。

日展や日本現代工芸美術展に出品するためには、会場環境に合わせ、それなりの大きさが必要なので、七宝作品であってもかなり大きくなります。2006年の出品作は、縦80x 横120cm、公募展用としては、かなり小さなものでした。

たとえば、日展の壁面作品は、180x180cm以内であれば出品可能です。そのため、染織などでは、基準限度ギリギリの大きな作品が持ち込まれます。比較されると面積的には3分の1くらいでしょうか。

また、秋の日展に向け構成を練り直し、同形サイズで「崑崙」を完成させました。

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memo-g222.gif 02.銅板切断後、裏焼


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頭の中に、全体の色彩配置とイメージが浮かんできています。 それをより明確にするために、まずトレーシングペーパーに2Hの鉛筆で、明確な形状の輪郭線を決めていきます。(これが後で、糸鋸の切断線になります)

ラフスケッチは手描きのみでしたが、ここでは三角定規や雲形定規も利用して、視線の流動性も考えて決定しました。

実際は3枚くらいのトレースを重ね、事前に準備したSMサイズに合わせた枠線入りトレース紙に清書していきます。枠線が二重になっているのは、既製のSM額縁に入れると、隠れて見えなくなる寸法も考慮し、全体のイメージが損なわれないようにするためのものです。
以前は1mmくらいの余裕しか見ていませんでしたが、最近は3mmくらい隠れても大丈夫なように描いています。

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memo-g222.gif 03.鞍を使った表面の焼成


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切断下図を元に、イメージスキャナを使って、パソコン用のデジタルデータに変換します。

パソコンの「Photoshop」というソフトウエアを使って、イメージに近い色彩案をまず描き、その後、微調整や大胆な色彩変換案など、毎回4〜7案くらい描き、その中から1枚を色彩下図として決定します。

七宝釉薬を焼成して出せる色数が決まっているので、「七宝色見本」という色彩データを並べておいて、そこからインクを取り塗っていくような描き方をしています。

従って、色彩下図ができると、ほぼ完成品と同じようなイメージを確認することができます。

ただ、PCのモニターは光の三原色なので、どうしても出せない色もありますが、そこは経験で、本当はもっと深い色に焼き上がるとか、もっと鮮やかな彩度になるとか、ガラス光沢が加わるとか、まだまだ本物に近づけることもできますが、あくまで下図として確認できればいいと考えています。

今回は、当初の第2案(右上)ではなく、より人体像が浮かび上がるような色彩に変更して、第4案(右下)に決定しました。

(注:ちなみに、この画像は青系がかなり紫系に片寄って表示されています)

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memo-g222.gif 04.「崑崙の雪」の完成


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PC上で決定した色彩と釉薬名がすぐ確認できるように、また記録用に、色鉛筆彩色の下絵も作っておきます。

普段からPCを起動させながらモニターを見て作業していますが、急ぐときはすぐ釉薬番号がわかる下図が重宝します。壁に張り付けておき、ちらりと見て、棚からすぐ釉薬ボトルが取り出せます。

また、作業中に微妙に使用する釉薬を替えたときの記録用にもなります。

(例えば、青系のアオキ475からアオキ474に替えたり、アオキ473に替えたり)

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memo-g222.gif 05.「崑崙の雪」の出品風景


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0.8 mm厚、SMサイズ(227 X 158 mm)の銅板の養生フィルムをはがし、線描下図をカーボンで写し、ケガキ線を入れて糸鋸で切断します。

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memo-g222.gif 06.「崑崙の雪」の部分拡大(1)


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「天生」では、58個のパーツに切断しました。

また、後でガラス玉を入れる所には、一直線に並ぶように、1mm径の穴も開けておきました。

写真の銅板は、洗浄後下図の上に、やや大きめのものだけ選んで並べているところです。

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memo-g222.gif 07.「崑崙の雪」の部分拡大(2)


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上の写真は、小さな銅板パーツばかり集め、バリ取り、洗浄、乾燥させたところです。

パーツがとても小さく、うっかりと消失しないように細心の注意が必要です。


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memo-g222.gif 08.「崑崙の雪」の部分拡大(3)


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銅板の裏には、裏引黒の釉薬を焼き付けます。しかし、間違って表に釉薬をさしてしまわないように、裏側に油性の赤いマーカーペンで印を付けておきます。

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memo-g222.gif 09.「崑崙の雪」の部分拡大(4)


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銅板をすべて切断して、マジックリンなどの洗剤で糸鋸用油分を洗浄した後、下図に重ねて並べた状態です。

銅板のパーツが正にジグソーパズルのようになっています。

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memo-g222.gif 10.「崑崙の雪」の部分拡大(5)


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銅板をすべて切断して、マジックリンなどの洗剤で糸鋸用油分を洗浄した後、下図に重ねて並べた状態です。

銅板のパーツが正にジグソーパズルのようになっています。

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memo-g222.gif 11.「崑崙の雪」の部分拡大(6)


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銅板をすべて切断して、マジックリンなどの洗剤で糸鋸用油分を洗浄した後、下図に重ねて並べた状態です。

銅板のパーツが正にジグソーパズルのようになっています。

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memo-g222.gif 10.「崑崙の雪」の完成図


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七宝焼き工程の詳しい解説は、いろいろな所で紹介されているので省略しました。

09の切断パーツの裏面それぞれに裏引き釉薬の黒をさして805度で焼成。

希硫酸液に付けて表面の酸化膜を除去。

水で洗浄(希硫酸液が残らないように注意)。

それぞれのパーツごとに、決めておいた配色の釉薬をさし、釉薬の発色に合わせて780度から805度の範囲で、微調整しながら焼成しました。(主に赤系は低温で、青系は高温。焼過ぎに注意)

その後、SMサイズより周り1mm大きな黒パネルに、G17などのゴム系溶剤形接着剤を使って貼付けて完成としました。

なお、金と濃茶のストライプのパーツは、彫金パーツです。表面を気持ち膨らませ、裏面を松脂台に固定してタガネ目を付け、濃茶色に硫化着色しました。

また、マスキング処理後、青金箔と純金箔を拭き漆の技法で、グラデーションになるように貼っています。

拡大して見れば、金箔の色の違いや彫金のタガネ目の跡を見ることができます。


今回は小さな作品ですが、日本現代工芸展や日展に出品するような大きな作品を、手持ちの電気炉で焼成して制作する方法として、銅板を糸鋸で切断してパーツごとに焼成、後でパネル上に再配置することにしました。

「モザイク七宝」の名称を使ったこともありますが、どちらかと云うと「ジグソー七宝」と呼ぶのがふさわしいような気がしています。

銀張り七宝や銀線七宝と併用すれば、もっと複雑なイメージも表現できるように思います。しかし、大きな七宝作品では、銀線などがほとんど見えなくなり、色彩面の分割のみに使われているようで、制作時間の割に効果が少ないように思えてなりません。

新たな七宝技法や鑑賞の参考になればと考え、ご紹介させていただきました。今後も、アルミ、アクリル、ステンレス、ガラス、雲母、和紙他、異素材との複合なども考え、今より一歩先を目指して努力してまいります。
                              [ by 轍 郁摩 ]


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