Graphein-O
Wadachi
------------


◆◆ 藤田湘子の俳句世界 ◆◆


藤田湘子先生
藤田湘子先生

撮影:1991年5月11日



■ 鷹2003年12月号より


賢しらを捨てに行くなり紅葉山

とんぶりを食べ禿頭やはらにす

胡桃割るたびに莞爾と顔あぐる

胡桃食ひくるみのやうに想ふかな

藷番の小屋やみくもに造られし

秋の蜂堂々と行く何やある

雨あしのしぶきちりばめ菱紅葉

気にかけて三日鶏頭いつ抜くか

残る虫豆電球の切れにけり
  北九州にて、高倉展行
二三度は猪突くらひし貌なりき

猪狩の仕草それからそれへかな

雁わたる唐津の城に惚れにけり


■ 鷹2003年11月号より 会津より始まる桐の一葉かな 蚊が刺せりわが弁慶の泣きどころ ぶつかつてわが体臭に蝉死せり 阿波木偶に泪せし夏逝きにけり 小灰蝶かやつり草をないがしろ 磧なす石ころの秋草の秋 露きらら牛馬羊飼ひし代は 国弱し男も弱しすいつちよん 何の餅彼の餅と食ひ九月尽 蓑虫の感情の糸けふ長し 何か言ふまへの唇鳥渡る 芋の子の育ちざかりの芋嵐
■ 鷹2003年10月号より      きなさ 雲白き信州鬼無里土用餅 雪渓を雲行き大き無音過ぐ どの雲の落し子ならむ吾亦紅     こくびやく 揚羽飛ぶ黒白といふけぢめあり 悪も愚もごつたの大暑到りけり       すみか 大冊や紙魚の栖の難漢字 紙魚なれば本の厚さを生甲斐に かなぶんと一対一の修羅場なり 蠅虎面目かけて我に跳ぶ 蜩の遠きひとつは束ね役 畦行けばやいのやいのと曼珠沙華 いわし雲虚子と遍路をしたかりし
■ 鷹2003年9月号より 三毛猫と黒猫と会ふ夜涼かな 永遠の時間さくらんぼの一皿 蝉も木も記憶を持たず蝉しぐれ 夕蝉やものの漲る刻過ぎて 大楠に来てことごとく風死せり 草の名にくはしき老女夏休 みな短命信濃太郎の名を負へど 高層群浮くか沈むか灼くるなり ギヤマンの酒官僚に遠くをり 白木槿萬歳はもう叫ぶなよ       てり 雲と沼晩夏の照を交し合ふ 雁渡老いて筆絶つ人のこと
■ 鷹2003年8月号より 朴の木と共に暮して更衣 一笊に青梅満たし懈怠なし 有難く干梅に皺生れけり 砂ぶくろから声が出て羽抜鶏 横着にまくなぎを突つ切つて行く 考への行止りより黒揚羽 稚魚たちの鰭はねむらず夏の月 七月は打身切傷神仏 浄瑠璃に泣かされ阿波の蓮田風 眉浄くお鶴を語り夏衣 海鵜等に鳴門の渦は神の技 渦知らぬ麦藁蛸は海の底
■ 鷹2003年7月号より 田に沁みる水は急がず春の暮          さき 春の日や卒寿白寿と先長し 卒業の長身ひたに空港へ 黄も黄なりいたちはぜとも言ふからに まみどりの杉菜の浄土虫交む 日の射して筍の穴いぢらしき 昼花火空威張して終りけり 郭公も北上川もまだ暮れず 青鷺暮れて詩人等寄りて酒とくとく 遠野はも山藤うぐひ古厩 賢治の詩むささびの子も夜空翔く 近在の田植も済みてお晩です
■ 鷹2003年6月号より 息一縷白樺の花仰ぎけり 春の炉や寝鳥のこゑの一度きり 五月蒼し水切る魚のまなこさへ ぺたぺたと干潟を行けば伽羅百済 甥来たる亀は鳴くぞと言ふ用なり 三鬼忌や靴の尖もて芝突つく 春雷やふぐりに付きし怠け癖 ぺしやんこの紙風船の時間かな 関東は花粉に満ちて蟇のこゑ 目路の春一重瞼に変りなし わが眼もう老いず近くを蜂通る 安房を出しおまさに桜しべ降る日
■ 鷹2003年5月号より 涅槃図に顔寄せ俳句亡者かな 涅槃図の泣顔どれもこれも佳き もの譬ふ両手をひろげ春めく日 一籠に山繭古び雪解風 蝶蜂の高さの上を谷こだま 散る梅に今年のわれは南無阿弥陀 蟇鳴くとつられて亀の泳ぎけり 恋猫のふくろふ貌の難儀かな    かた 東京の方へ向ひて汐まねき    ゆ 街中に温泉を掘る話目借どき          ごしやうらく 豆飯の口もごもごと後生楽 あき 瞭らかに山息づきぬ蓮翹忌
■ 鷹2003年4月号より 大寒の一本の薔薇鳴りいづる 正月や賽のぞろ目をほくそ笑み 枯蓮と貘が目当や上野まで 鬼の死のこと伝はらず鬼やらひ どうやつて鬼になるかといふ春愁 昨日からうつつも夢もあたたかし 鈴の鳴る春は三橋敏雄かな 餅腹や大往生を父に謝す 凍靴に足突つ込んで父亡きなり     おやぢ 雪降るや親父の顔と死顔と 嚔して鼻●んで父亡き此の世   ●手偏に鼻 春の雲精進もせで父想ふ
■ 鷹2003年3月号より 居ることの妙なる女礼者かな 禿頭せちに洗へり去年今年     ひら 初富士の闢ける空の下にをり          けは 初夢の亡き母なぜに化粧ひせる 繭玉も二重に見えし晴子かな 田の神の暇やあそばす虎落笛    あした 水仙や明日の晩といふ期待 口皺に吸はれてしまひ寒蜆 会へば物呉るる漢は梟か 臘梅を老梅と書く花屋は駄目       しらず 句作りの文語不識や寒の梅 雪積る谷けものの眼さかなの眼
■ 鷹2003年2月号より 枯野道まつすぐに来て終りけり 枯山の谺となればやす寧からむ 夕景の森あり寒き距離と思ふ        つら 河口まで行く水辛し雪催 雪霏霏と片眼の視力寂しけれ 雪の森一鞭くへば我消えなむ どどどどと日暮来る音雪の谿 白樺は夜明の木なり雪やみぬ 太陽にをののきし色唐辛子 美少女の言葉に呆れ酉の市 天丼や暮も十日の馬喰町 年移りをり我の名はわれのもの
■ 鷹2003年1月号より 菊焚くや波郷のごとく袖袂 あめつちのくれなゐ消ゆる秋の暮 天体は言葉降らさず夜学生 木の霊に啖ひつきたる月夜茸     かうべ 時雨来て首濡れけり弱者めく 今を在る者が愛弟子冬木の芽 綿虫のこゑは水ともけむりとも 冬蝶と亦逢ふ何か起るらん なまなまと一枚ありぬ古暦     すさぶ 古暦人寰荒ぶばかりなり 朱鷺も殖え鶴も殖え国寒くあり 雪嶺の供華とし銀河懸かりけり

2005年 縦書き表示
2004年 縦書き表示
2003年 縦書き表示

up--2004.04.12


Copyright © 2002-2020 IAM. All rights reserved.