2024.02.04

轍  郁摩


Ikuma Wadachi

2020年 以後

轍 郁摩  

2024年  R6 ●鷹2月号より 柚子風呂の気楽極楽明日あり みてくれの悪しき柚子とて湯に香る 柚子十個つきぬ日月われにあり 石割れば石の音してしぐれけり ●鷹1月号より 群衆の街見下ろして鳥渡る 二千年ロバの曳く荷や星月夜 たかが血とされど流血紫苑咲く
2023年  R5 ●鷹12月号より 聴診器汗ばむ胸に当てるなり 徒党組み押寄せ来る放屁虫 月明の森白雲の陰に入る ●鷹11月号より ヒロシマに集まる異人原爆忌 炎帝に剝がれし顔を向けにけり 白鷺の一羽と見ればまた一羽 ●鷹10月号より 蓮咲いて文殊菩薩に剣かな 変幻の光閉ぢ込め蓮の露 刺身蒟蒻禅問答はほどほどに ●鷹9月号より 山々にいま乙女らに合歓咲けり たましひとかばねをさらす炎天下 水に浮く蛇さらさらと流れけり ●鷹8月号より あめんぼと雨の日曜ねまるなり 十字切る祈り短し棕櫚の花 連添うて歩く二人や夏の月 ●鷹7月号より 春の夜本の腰巻外したる もすそゆれ乙女らゆきぬ花ふぶき 白牡丹オンコロコロと唱へけり ●鷹6月号より ZEISSのルーペ畳めり蓮華草 金継の赤き茶碗や春疾風 男神の白き裸身や桃の花 ●鷹5月号より 火のにほひ放ちし雉子撃たれけり 雪原の馬一筆に描きけり ●鷹4月号より 蕉翁の枯野継ぐものたれかある あんぱんの一つ減りたる歳の春 フレスコの淡き緑や春着の子 ●鷹3月号より 伴ひとり下弦となれる冬の月 メキシコ産冬至南瓜に刃を入るる ●鷹2月号より ダ・ヴィンチの贋作なれど冬暖 桜炭まっかに蟹を焼きにけり ●鷹1月号より カルストの朝霧速く流れけり このたびは一事が大事栗の飯
2022年  R4 ●鷹12月号より 天高し鞍の腹帯絞めにけり 縄文も弥生も遥か木の実落つ ●鷹11月号より その朝の路面電車と蟬の声 秋の夜の充電せがむ電子音 ●鷹10月号より 浜万年青風雨に耐へし朝かな 陰陽の形代川を流れけり 昼寝より醒めし頭上の百日紅 ●鷹9月号より 明易や戦なき世の膝小僧 首かしげ恐れを知らぬ雀の子 蟻の列藝術大学門前に 梅雨明や髪刈る音の潔し ●鷹8月号より 為すべきと決めし約束藤の花 くらべうま落馬の騎手を振向ず ●鷹7月号より 朴下忌と呼ぶべき月の皓々と 万愚節また幾人の死を数ふ ふらここを漕げよ乙女ら涙して 爆弾のごとき長靴蝌蚪の国 ●鷹6月号より 明け方とおぼつかなくも春の夢 飢知らぬ我らゆるせよ木瓜の花 ●鷹5月号より 立春の蒼きシリウス言問へり 夕東風や病平癒の飾絵馬 無援なる国戦へり春の鹿 すべもなく凝れる手より椿落つ ●鷹4月号より 一月の漁港を守る鳶かな 梟のタイムトンネル潜りけり ●鷹3月号より 気がつけば冬月すでに天にあり こがらしの身にくれなゐの袖通す ●鷹2月号より わが行けば歩く速さの綿虫ぞ 舟の波紅葉の影をゆらしけり 探査機の電波とどけり七五三 ●鷹1月号より 秋風や名鹿(なしし)の海の砂の粒 先代は居らねど秋のジャズ喫茶店
2021年  R3 ●鷹12月号より 秋つばめ落日の雲乱れけり 足摺の断崖よりの秋の風 虫哭けりあまたの種族保ちつつ ●鷹11月号より 落蟬の指の中にてふるへけり 蹄鉄の泥をぬぐひて馬冷す ●鷹10月号より 鳳凰の翼広げし夕焼雲 正直に生き金亀子天道虫 ●鷹9月号より 亀の首のばしのばしぬ沖縄忌 夏帽子医者も注射もいらぬなり ●鷹8月号より 一心にみがく鏨や若楓 金槌と鏨磨きて夏来る 十薬のかかげし蕊も濡れにけり ●鷹7月号より 揚雲雀無限地獄を知らぬなり 青鷺の翼傾け降り立ちぬ 生首の重さ甘藍下げたるは ●鷹6月号より 五百年咲きたる桜ただ咲けり 花あれば花の下にて飯を食ふ 谷底に青き川あり花の雲 ●鷹5月号より 我が声にわれの驚く雉子かな きさらぎの氷柱男の子らなぎ倒す はくれんの雨待つ蕾ふくらみぬ ●鷹4月号より 橘の家紋正しき年明くる 初夢の無残の翼広げけり 三日はや膝から付箋こぼれ落つ ●鷹3月号より 枯山の鳥と思へばまた一羽 ゲルニカと赤いコートの女かな ●鷹2月号より 唇に赤き血のいろ紫苑咲く 問答に負けたり美男葛の実 冬晴や墨たつぷりと浸すなり 大根や師系傍系栄あれ ●鷹1月号より 色鳥来吾にさびしき尾骶骨 伊邪那岐のめぐる黄泉路や穴惑 百舌鳥の声大風呂敷を広げけり
2020年  R2 ●鷹12月号より 苦瓜の赤く裂けたる匂ひかな 源平のいくさぞ祖谷の霧襖 ●鷹11月号より 八月の腹の贅肉如何とも 頭から神馬洗へばいななけり 白露の天上世界歪みたる ●鷹10月号より 芋虫の時間と我に言ひきかす パソコンの消えさう北へ雷走る ●鷹9月号より 濡れをるは毛氈苔の捕虫葉 蟇不動の位置を捨てにけり ●鷹8月号より 芍薬やわれに五月の誕生日 豆飯の夕餉の香り遠くより 廃鉱となりし山々ほととぎす 大紫法衣にとまることなかれ ●鷹7月号より 朧なるこの世へだてしマスクかな 花に雪アルデバランの哀しき眼 ●鷹6月号より 戦乱は街のみならず雲雀鳴く 引鴨の私信のごとく旅立てり 春の鹿守るべきもの己のみ ●鷹5月号より 錠剤に小さき文字あり實朝忌 船漕ぐや桃の香りの華胥の国 ●鷹4月号より 元旦や帆柱もなき戦船 騎馬初一打の鞭に疾駆せり 椿落つ一睡に夢見たるらし 雪片を睫毛に受けし一夜かな 天界の星に夜明けの鴨の声 ●鷹3月号より 護国寺の禅師一喝干大根 寒晴や棺の顔に触れしのみ ●鷹2月号より 雨降らす女ありけり冬紅葉 雲に鳥翁の杖のたふれけり ●鷹1月号より 虫を喰ふ狢藻の花可憐なり みぢんこと吾のひと世や秋の天
Memo
鷹俳句会の俳句雑誌 『鷹』 は、 2005年 鷹5・6月合併号以後、小川軽舟 選

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