2007.06.07

一句鑑賞


月光の象番にならぬかといふ

飯島晴子

句集『春の蔵』所収 昭和54年作

轍 郁摩

 

 七度生まれ変われるとしても、薔薇園丁と白象飼育係は御免である。献身の果てに身も心もぼろぼろにされてしまう来世がほの見える。

 飯島さんは薔薇ではなく野茨が相応しい女人であった。京都生れの俳人だからてっきり和装で現れると思っていたら、いつも洋装。初めてお供して上野原へ吟行した時もズボンにリュック姿。

 微笑んだ貌をちょっと顰めて「仕様がないですよ」と答える姿が思い出される。そして、吟行で得た素材から遥かな飛躍(エラン)を遂げる。

 「象番」の句が、動物園の象舎から出発したとしても、晴子さん自身が納得できる詩に昇華した一句に仕立てられると、もはやスーパーの食材のように生産地は問わないのである。

 密林。月光に照らされ、鼻を高く振上げたアジア象は白象のごとく輝く。大亀に乗って地上を、須弥山を支えるあの三頭の象も背中の丸いアジア象に他ならない。

 「プオー」と哀調を帯びた鳴き声は、仲間を呼ぶ心やさしき草食動物のものであるはずなのに、私の遺伝子の中には、氷河時代の巨大マンモスを恐れた記憶が今も受け継がれている。

 




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