99.06.13

光 部 美 千 代

Michiyo Kobe

インターネット佳句抄

轍 郁摩 抄出
旧作より、こころに残る作品を紹介

1993年
第21回 鷹新人賞作品より

晩秋の夕べ弦楽器は女体

バロックの楽水のごと黄落期

鳥渡る薄き肉ある己の背

ふつつりと切るための髪洗いをり

とどまるは穢るるごとし草いきれ

鰺刺や肺腑つめたきものを欲る

浦びとに風の名を聞くきんぽうげ

こころゆくまで嘴研ぎて鳥の恋

鰤起しこころ封じの膝を抱く

鴛鴦や日を容れて雲なみうてり

雪止みて白濁の夜をのこしけり

まなぶたのごと翅閉づる冬の蝶


1995年
第30回 鷹俳句賞作品より

日本に目借時ありセナ爆死

蟷螂も吾もぎくしやく生きてゐる

霜夜なり男女のあひのチエスの黙

暖炉燃ゆ女はチエロを股挟み

雪祭果てたる星のつぶてかな

みづうみのつくりし雲や酢茎噛む

わが思ふことを子の言ふ春の道

サングラス外せば泣いてゐる女

いなびかり美童世阿弥をおもへる夜


鷹新人賞「受賞のことば」より抜粋  楽器の木は生きているらしい。弾きこまれるほど、その木の 細胞が美しい音色を出せるように並び変わってゆくそうだ。響 くたび、自らの細胞を並び変え得るような柔軟さをもって俳句 にも接することができたらと思う。 鷹俳句賞「受賞のことば」より抜粋  閃光のような瞬間は、決して同じ場面を繰り返すこ となく矢継早に現れては消えてゆく。アンコールは届 かない。多分、俳句もそのようなものだろうと思う。 二度と再び起こらない一瞬の閃光を、ひと息で捉えら れるのは、この最短詩型以外ないのではないだろうか。


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