大根伝説!!


                            轍 郁摩



家鴨が網に掛かった。

昨年の師走初め、また俳句の道にいい女を誘ってしまった。ただしまだ一面識もない。

世は情報化時代。インターネットの私のゲストブック(掲示板)に、俳句らしきものを書き込んできたのである。

「あひるさん、今ならまだ止められる。ヤクの禁断症状が出る前に考え直してみよう」と注意も促した。
「禁断の俳句媚薬はオイシイけれど、身体までボロボロにされるんだよ。親分に鞭でぴしぴし打たれ・・」と、あらぬ脅しまでかけてもみた。しかし、俳句道への精進の志高く、加えて句会後の美酒の香りにその胸をふくらませたに相違ない。

これに輪をかけたのが角川俳句賞である。受賞すればマンション購入の頭金まで得られるとの噂。こんな美味しい話をみすみす見逃しては主婦の恥と思ったのだろう。

翌日から、住所不明、本名さえわからぬケーキ好きのニックネーム「あひる」さんから、ゲストブックへの俳句の書込みが一挙に激増することになってしまった。条件は、湘子先生の20週俳句入門「型・その1」の要点をメールで伝え、必ず「大根や・・」として一ヶ月毎日最低一句以上作ること。雅号にはとりあえず「家鴨」の漢字を当てておいた。

第一作は十点満点の五点。早く十点取れるように頑張っておくれと励ました。つまり、その出来具合に私が点数と寸評を付けるのである。しかも、このゲストブックは恥ずかしながらインターネットで一般公開、誰でも見ることができる。六点、七点、八点、たまに甘い九点。なかなか十点は出ない。

有馬記念も終った歳末、このやり取りを見ていた絵画好きの「ミント」が真似をして一句書いてきた。そこで家鴨に「鴨が飛んできたよ。捕まえて君の弟子にしなさい。弟子を育てると俳句が上達するよ」と諭したのだが、さすがにまだ初心者、難しかったようで、私のゲストブックに雅号「眠兎」で「水仙や・・」の修行の毎日と相成った。

さてさて、この特訓は最低4ヶ月続くはずだったが、年が明けた一月半ばにはグラスリッツエン(ガラス装飾)講師の「ヒロコ」までもが「尋子」として加わり、「寒雷や・・」。

そしてこの夏には、「句会に出てみたい」の一言。それには俳句雑誌「鷹」に投句が必要と伝えると、翌日には3人が郵便局へ走り、九月号から投句。それぞれが二句欄に掲載、私も二句欄でおろおろ。これはまずい。

十月号は巻頭でほっと一息。いやいや油断できない新人たちなのである。網で育てられたのは私であった。

未だ声さえ知らぬ家鴨・眠兎・尋子が成長すれば、ITのゲストブックでのや りとりは、「大根伝説」となるのかもしれない。

                  俳句雑誌「鷹」2003年12月号掲載




Copyright & copy 2003 Ikuma Wadachi. All rights reserved.
Ikuma Wadachi