99.01.05

直 立

インターネット句集

轍 郁摩

冬の蝿日当る所離れけり

荒涼の野を全天の星つつむ

花菖蒲鎌は真青にとぎにけり

燕の子一番線は混みにけり

花野来て金箔薄き阿弥陀の掌

たましひの動き出すなり崩れ簗

闇汁の一碗すする音高し

朧夜の鏨の音を低くせり

袋掛終りし村の灯かな

蟇睦み赤き満月近くあり

青梅をもぎたる夜の油鼻

秋風や亀を飼ひたる鍛金師

鮃喰う元朝土佐の大皿鉢

空蝉や海の底なる震源地

秋蝶の黒き華やぎ過ぎにけり

旧正や版木の紅の強情に

曇天の美しき日よ鳥交る

一螢二螢陸奥のほたるかな

秋深し機械と話していたり

霧込めの厩見て来し憂国忌

舞踏靴氷室に隠し置かれけり

茄子苗を植ゑてこの世を広げけり

太虚の広さ目玉痛めて鷹渡る

大海鼠バケツの外は薄霜ぞ

網代守あぶりし肩をひとゆすり

さえざえと金鶏しのびあるきけり

ひろしまの河見てあれば差羽かな

篝火に冷まし水打つ鵜匠かな

椰子の間踊り子たちの通るなり

竹伐に径ふさがれてをりにけり

冬麗や少女尻もて馬制す

太竿を担ぎて来たる野焼衆

桃の花トルソの魔羅をさびしめり

海ほほづき男は脚を愛しけり

直立のあやしくなりぬ花氷

梯梧咲く木陰は愛を語るによし

おどろ絵を見てゐて汗の膚ふれあふ

新秋の華やぐ草に遊びけり

木偶人形しまひし箱や夜の霧

大胆の嘘を通せり芋の露

ほのめきて美貌の雌鹿妊みをり

渡り鷹現れし東の雲かすか

いびつなる蒟蒻玉の相寄れり

芒山星の光のとどきけり

ダ・ビンチの飛行計画甘藷焼けり

船中の炭火まつ赤や最上川

死後の景花火に音のなかりけり

冬虹や死は目前の松ゆする

遍路バス道はみだして廻りけり

シェパードとならび美貌のサングラス

種袋さかさにあけてしまいけり

毛皮より延びし足なり待たせけり

十月や架けたる像のあばら骨

桃啜り死者の書を今宵開く

日向へとわれを誘ふ尉鶲

盆梅の八十畳に客二人

男装の白は麗し松の芯

遠足の凸面鏡の前通る

青蜥蜴逃げゆく先もこの世なる

真剣は人切る重さ朴の花

二人して遊ぶ手花火余りけり

手毬唄エレヴエーターの開きけり

春寒やうろこ耀ふ鯉の主

菊根分電子メールのとどきけり

棕櫚の葉のはばたく南風吹きにけり

藤棚の出城のごとき日陰かな

嚶嚶と顎に力や吹流

梅干すや亡き人に死後長かりき

黄金虫火遁の術を使ひけり

美しき湖水や山や猟期来ぬ

音楽のかたち顕ちたる霜夜なり

父よ寒きか肋一本失へば

水鳥や鉄のライター音発す

年の豆妻が先寝てしまひけり

春蘭の火のごといのちをしみけり

いのちある掌中の蝶放つなり

兄妹の確かに似たり夏茶碗

鹿涼したちまちに柵越えゆける

美しき空踊子を誘へり

晩涼の脛に水かけゐたりけり

致死量の薬待たるる夜長かな


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● インターネット句集「直立」(PDF:197k)


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