99.06.13

野 本   京

Kyo Nomoto

インターネット佳句抄

轍 郁摩 抄出
旧作より、こころに残る作品を紹介

1984年(S.59)
第12回 鷹新人賞作品より

くれなゐの蟹追ひつめてかなしめり

愛憎や熟柿押したる指の先

烏瓜人殺めては目覚めけり

死にざまをさがしてゐたり臭木の実

白鳥の首を猥らとそしりけり

流氷のとどまりたるはかの嗚咽

冬の沼心の鱗はがれざり

草の絮指に纏はる別れかな

わが墓標松露踏むたび近くなる

鯉幟をとこの市の立つごとし

白木蓮や別るる時をはかりあふ

父と聞く蜻蛉のつるむ羽音かな


(1991刊)
■句集「わたしがゐてもゐなくても」より

泣きにゆく裏の竹薮伐られたり

椿の実割れて知りたる殺意かな

霾りて墓標のごとく忘らるる

しぐるるや肉食したる蒼生忌

恋敵それは上手にレモン切る

更衣亡き人ほどの男ゐず

ひとことに男を殺しさみだるる

どつちみち生き恥さらす海鼠かな

尋めゆけり黒花咲かすものの種

かひやぐら蛤はいま睦みゐる

散るさくらわたしがゐてもゐなくても

降る雪に顔打たせけり最上川


鷹新人賞「受賞のことば」より抜粋  何事によらず、続けるということは、実にエネルギーを要す るものだと、この頃よく思う。自分の足で歩いて、物に出会い、 人に出会うことで活路を見いだしてゆくしかないようにも思う。


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