(2)パビリオン、前もって調べておけば・・・
愛・地球博の見学旅行から帰ってくると、鉄鋼関連の学会からの月刊誌が届いて
いた。トップ記事は「愛知万博における環境配慮と鉄骨建築」である。展示物・
展示品を見るために、パビリオンに入るために、列を作って順番を待つものと思
いこんでいた。建築物・構造物・パビリオンだけを外から観察することも見学の
一つの方法だったことを知らされたのである。後悔することしきりである。思い出しながら、この記事の内容を紹介したい。
長久手会場の主要エリアを結ぶためのグローバル・ループは、幅20m程、全長
2.6kmの板張りの環状の歩道であり、バッテリー駆動のグローバル・トラムや自
転車タクシーも走るメイン・ストリートでもある。この空中回廊は起伏に富んだ
地形を痛めつけることなく各エリアを繋ぐために考え出された。回廊を支える橋
脚は、複数の鋼管が地上の一点(支点)から扇状に広がった構造をしており、そ
の基礎となる支点は、ねじ様の鋼管杭を地下に回転貫入させたものである。この
工法では、この基礎鋼管杭を逆回転によって、地中に残存させることなく、また
地上に大きな傷跡を残すことなく、撤去できることになる。
トヨタグループ館やガスパビリオンでは、解体時に障害となるような鋼材の溶接
接合や鋼材のリユースの価値を下げるようなボルト孔を使っての締結結合(ボル
トとネジによる締め付け法)を使わずに、鋼板あて板、ボルト、ネジを使った摩
擦締結法を採用してリユース性を増している。三井・東芝館は単管の足場用の仮
設資材を使い、建物を覆うルーバーとして、外装の美しさを追求している。
西ゲートを入ると直ぐに、竹籠を被せたようなパビリオンが目に付く。長久手
日本館である。竹ケージの下にはホーロー鋼板に光触媒(TiO2)をコーティング
した屋根材が使われ、これに散水して蒸発潜熱による温度低下を図っている。光
触媒外装材は超親水性(水に対する良好な濡れ性)を持っており、散水により屋
根表面に薄い水膜が形成される。少量の水で効率よく打ち水効果が得られるのが
特徴である。
各国の展示空間は地域ごとに6つのグローバル・コモンに集約されている。これ
らのパビリオンはモジュール単位で構成されている。1モジュールは18m×18m×
9mであり、積み木のように接続できる構造である。組み立て、解体、リユースを
容易にするためである。これを基準にして、各国は内外装を個性豊かに仕上げて
いるのである。水の蒸発に伴う気化熱で温度を下げようとする試みは「愛・地球
博」の至る処で目に付く。ワンダーサーカス電力館の順番待ちの広場では天井か
らの微細な水滴のスプレーで温度を下げているし、三井・東芝館のルーバーには
水が伝い流れる仕掛けがあり、熱交換機の役割を果たしている。ギネスに載った
最大の万華鏡の名古屋市パビリオン「大地の塔」では四つの外壁面を水が膜のよ
うに静かに流れている。世界最大級の緑化壁(バイオラング)も植物の蒸散機能を
使って温度を下げる試みの一つである。バイオラングとは生物(Bio)と肺(Lung)
を組み合わせた造語である。ところで、近頃、本物と見間違うほど精巧な造花を
見かける。しかし、触ってみれば、本物か、造花か、直ぐ判断できる。冷たけれ
ば本物、室温と変わらなければ造花である。
前もって調べていれば、受け売りでなく説明できたのに。パビリオンの前の説明板、案内板を読んでいたら、そのつもりで見てきたのにと悔やまれる。(鈴木朝夫)
※参考資料:「ふぇらむ」(日本鉄鋼協会会報)、Vol.10、No.7(2005)pp.576~580.
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